皮膚粘膜に刺激を与え、健康美を護る生姜
日本のスパイスの代表選手ショウガは熱帯アジア原産であるが、熱帯・温帯の各地で栽培されている。
日本には中国から渡来したので、古名を呉ノハシバミという。
シソをソフトなスパイスとすれば、ショウガは日本の代表的なハードな香辛料で、山椒、番椒とともに、薬味の代表選手である。
東大寺のお水取り(修二会)の食堂の作法を拝見したとき、この天平時代から続いた行法の配膳の後に、生姜、山椒、胡椒の三種の薬味が常備されているのを知って、用意周到なのに感心した。
日本の食生活には欠かせない生姜早春にはもやし生姜「芽生姜」、夏秋には新芽や茎葉を伴った新根茎「新生姜」、冬は気味が高く温性の強い肉根茎「ひね生姜」が、四季を通じて日本の食膳に登場する。
新生姜は歯切れがよく、香気があって、まだ辛味が強くないが、ひね生姜は甚だ辛い。
新生姜は、生のまま味噌を挟み、膾や焼き魚に添え、衣を着せて精進揚げとし、味噌漬、粕漬、砂糖漬、蜜漬、梅酢漬の紅生姜などに、またひね生姜は細かく刻み、擂りおろして、魚のなまぐささを除き、膾やすしに添え、甘酒には欠かせない。搾り汁は酢に合わせて、生姜酢とし、生姜糖や生姜飴まで、幅広い分野にわたって使用されている。
漢方薬としての生姜なぜ生姜が日本食に欠かせないスパイスなのかを、漢方薬としての応用面から探ってみよう。
薬用には、新生姜より気味の高いひね生姜をそのまま刻んで生で煎用するか、乾燥した粉末または煎剤とする。そのまま乾したものを乾生姜、蒸して加熱乾燥したものは乾姜と呼ばれる。
生姜は芳香性健胃整腸、駆風、矯味、食欲増進薬として、新陳代謝機能を促し、水毒を去る目的で、嘔吐、咳嗽、腹満、発熱、頭痛、鼻づまりなどに応用される(一日3~4g)。
乾姜は腹の冷えて痛むもの、腰痛、腹痛、頭痛、瀉下などに応用される。
これを漢方では辛温の気剤という。辛温の気剤は生姜に限らず、肺・鼻・皮毛(毛穴)などの呼吸器官からの発散を補い、大腸の働きを助けるので、腸のガスを発散する駆風作用があり、脾胃の活動も助けるので、健胃整腸薬と呼ばれる。
さらに心臓循環器の負担の結果現れている頭痛、発熱、咳嗽、嘔気などの生理症状を、生姜は発散解消する。
結果的には辛温剤は、心臓を益することになり、消化吸収から排泄、血液循環、呼吸器の活動に寄与することになる。
要約すると生姜は、湿気を気化して払い去り、血行をよくし、皮膚と呼吸器、胃腸の粘膜に働いて健全化を図り、そこに発生する微生物の発育を阻止する抗菌・抗カビ御作用を発揮することになる。これが香りあるものを皮膚や頭髪に化粧料とする慣習であり、疾病に漢方薬として使用されてきた原理である。
数多い漢方処方中、生姜または乾姜を配合したものは実に56%に達していて、数多い香辛料の中でも、生姜は東洋人の体質に最も適合したものであることを物語っている。
ショウガの成分と辛温剤ショウガには辛味成分と芳香成分とが共存している。辛味成分には結晶性のジンゲロン0.4%と油状のショウガオールがあり、芳香成分は精油2%で、ジンギベレン、ジンギベロール、カンフェン、ボルネオールなどが含まれている。
つまり辛温剤は皮膚粘膜に刺激を与え、健康美を護る食品・薬物で、食べ物を腐らないよう、カビないようにして、速やかに消化吸収する薬味であることである。
腐りやすい食品は美味なもので、生物の生存に必須の蛋白源である。
したがって先人は、肉、魚、卵、豆腐などを食べる時、必ず生姜、山椒、番椒、胡椒、辛子、わさびなどを薬味として添えることを教えていて、それが不足したり、多すぎると、肝臓がそのしわ寄せを負うことである。
渡邉武博士「薬草百話」より
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