◎鑑賞と実用をかねた花木
日本の西南部から中国の中南部、台湾、フィリピンにわたって見られるアカネ科植物のクチナシは、初夏に咲く芳香のある白い六弁花と、秋冬に紅熟する果実を鑑賞の目的に、庭園樹としても広く栽培されているが、完熟した果実は巵子または梔子、山梔子の名で、古く飛鳥時代から黄色染料として木材、和紙、布地の染色を初め、沢庵漬けなどの食品の天然着色料として応用され、また、花は蔬菜代わりに生食・煮食し、乾燥花としてその美味が珍重されてきた。
そのうえ、乾燥果の粉末とその煎剤は重要な漢薬で、消炎、止血、利胆、利尿、鎮静薬として、古く『神農本草経』に記され、吐血、充血、血尿、打撲傷、黄疸などに黄柏、黄芩、大黄などと同様に苦寒薬の一つとして、今日なお賞用されているだけでなく、胸元がつかえて吐き気を覚えるような胸苦しさを解消する漢方群である「種子剤」の主薬となる重要漢薬でもある。
◎クチナシの成分と染色
クチナシの黄色色素はカロチノイド系色素のクロチンで、短銃の分泌を促進させる作用がある。
沢庵漬けや食品着色料として利用されてきたのは、単なる色づけではない古人の知恵であり、それが近代科学的にも裏付けされたことになる。
そのほか、イリドイド配糖体のガルデノサイド、ゲニポサイドなどが含まれている。
花弁中にはマンニットを含んで甘味があり、花臘と精油が含まれているので特有の香気がある。
果実の煎汁は、そのまま、または酢や灰で布地を黄色に染めたが、古くなると褐色に変色する。
鉄媒染では暗黄色、クロール明礬では黄色に染まるが、酸性でもアルカリ性でも染色する特徴がある。
和紙や布地の染色は、現在、草木染や民芸品にわずかに残されているが、自然食品や家具、木工芸品の染色今日でも見られる。
花は生食または煮食すると甘味と芳香があり、歯ざわりがよい蔬菜となる。
乾燥花として貯えて、もどして使用すると便利で重宝する。
◎クチナシの薬効
クチナシが他の苦寒剤の血剤と区別される特徴は、熱があって激しい胸苦しさをうったえるときに、止血、消炎、利尿、鎮静、解毒、鎮吐の効果が確実で、これを山梔子の心煩(胸部に煩悶があり、心悸亢進のあるもの)の証という。
この漢方の基準に従えば、吐血、鼻血、血尿、眼の炎症や腫痛、不眠、黄疸に著効がある。
火傷や打撲傷に黄柏末などと混ぜて、酢で練って外用するとよい。
漢方では炎症、外傷や諸出血に黄連、黄芩、黄柏とを加えた名方「黄連解毒湯」や、さらに大黄を加味した「五黄丸」があり、内服または外用の救急薬である。
黄疸には、山梔子に茵陳蒿(カワラヨモギ)や大黄を加味した名方「茵陳蒿湯」が賞用される。
梔子剤にはそのほか、「梔子豉湯」、「梔子大黄豉湯」、「枳実梔子豉湯」、「梔子乾姜豉湯」「梔子厚朴湯」などの有名処方や、「温清飲」、「加味逍遥散」、「加味帰脾湯」などの多くの後世用法がある。
渡邉武博士『薬草百話』より
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