美人だけでなく不美人にも
美女をたたえるのに、世間では、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」といわれる。
その反面、「美人薄命」ともいわれるが、それは不美人や醜女に対する、せめてものなぐさめの言葉だけではない。
この三つの、日本人に親しまれている園芸植物は、応用植物学上では、花卉としてよりは薬用植物として、その根をとりあげた方が先行している。
東洋医薬学上では、古代からそれぞれ水毒、血毒、気毒による心身のアンバランスを補正する代表薬で、薄命の美女の心身の歪を正常化して、健康美と長生きを保証するものであるから、不美人にも、その恩恵を差別なく約束する。
ユニークな薬
ボタンは根の皮に、ペオノサイドとペオノライドの2種の結晶性配糖体を含み、特有の佳い香りがあり、近代薬学では、解熱、鎮静、鎮痙、鎮痛、抗炎症、浄血、止血、通経などの作用がある。
東洋医薬学上は、当帰とは対称的な辛寒の薬性で、瘀血と呼ばれる、近代薬ではない非生理的血液の排除薬といった特性がある。
この瘀血は、外傷、打撲傷、脳出血、吐血、喀血、血尿、血便や月経異常から、食毒や人工流産などで起こるが、いずれの場合でも、身体に現れる異常が下腹部に集中するので、下腹部痛や重圧感や腰痛、下肢痛など、漢方で腹証、背証と呼ぶ症候で確認できる。
その瘀血症があれば、牡丹皮がその解除を約束するといった、独特の選薬方法で、中国よりはむしろ、江戸時代の漢方家によって開発されたユニークな薬の決め手である。
座れば牡丹は、漢薬牡丹の適応症の病像で、下半身に鬱血があるため、座り込んだら立ち居が不自由になるので、立っている者は親でも主人でもこき使い、主人を尻に敷くことになる。
いくら容貌は優れても、こんな美人を妻に持てば、一生の不覚という結果になるので、牡丹でこれを解除し、真の健康美を取り戻そうという教えである。
花より薬
今日残る牡丹の名所を訪れると、どこも最初は薬用目的に特用作物として取り上げられている。
大和の当麻寺、長谷寺、大宇陀の森野薬草園などが奈良県の製薬の発祥となり、それが発展して、近代医薬品メーカーは奈良県から多く発生している。
巨大な牡丹株群を誇る、福島県須賀川の牡丹園も、旧幕時代、武士が薬業家に転じ、大和から牡丹苗を移入し、薬草の原料確保のために始められたと伝えられている。
漢方薬の本場の中国でも、革命後江南の牡丹の大栽培地を、観賞植物と考えられ食用作物に転換されたが、主目的が薬用にあることがわかり、再転換し牡丹畑が復活したことが報ぜられている。
外傷、内出血や炎症性婦人科疾患に広く応用される、甲字湯や桂枝茯苓丸、盲腸炎、腸炎などに賞用される大黄牡丹皮湯など、著名な漢方剤に配合される。
渡邉武博士「薬草百話」より
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