<北門の守護役・附子(玄武)>玄武は北方の守護神で、黒を象徴する。北は寒冷であるから、漢方では寒さや冷えによって風邪や腹痛、下痢、低血圧、神経痛、リュウマチなどを陰病と呼び、温熱薬である附子や烏頭を配合した漢方薬で中和して治療する。
その代表的な薬方は、「玄武湯」と名づけられていた。
「玄武湯」は、後漢時代の張仲景の著書になる『傷寒論』にあったが、
宋代に印刷技術が開発され、今日我々が手にする『傷寒論』は宋代に出版されたものであるから、宋朝の皇帝の名の玄を避けて「真武湯」と改名されて今日に至っている。
寒冷の病邪が、身体の表裏内外からくるのを予防・撃退する名方である。
古くは、正月の屠蘇には、必ず寒を避けるための附子が配合されていた。
<薬用部位>トリカブトは樹陰の湿地によく自生する宿根性草本で、
塊根は円錐状倒卵形で直下し、長さ3~5cm、毎年側方に同形の子根ができて古い塊根は腐る。
晩秋、茎の上部に特有の形をした長さ2~3cmの碧紫色の美花を開く。
薬用にはこの塊根を使用するが、古来、同一根でありながら、その形で烏頭、附子、側子、烏啄、天雄など種類が多く、その上、附子、烏頭、天雄は応用目標が違っている。
烏頭は外用することが多く、附子より強度の麻痺や疼痛のあるときに使われ、天雄はノイローゼや神経疾患、陰痿、精力減退、強迫観念などに応用され、昔、若武者などが出陣のとき、おびえて腰が立たないようなときに『金匱要略』の名方「天雄散」を酒服させると、勇気凛々として戦場に出ることができたと記されている。
先に述べた成分や毒性の消長や根の発育状況から考えると、烏頭は子根の発育しない開花期前後、附子は開花後母根が枯死した秋末か冬季、天雄は春独立した子根から地上に葉が出た時期に、それぞれ採取したものとするのが至当である。
トリカブトはカブトギクとも呼ばれ、色彩も花形も鑑賞に耐えるので、直立性のトリカブトが古くから栽培されているが、これはこれは中国から渡来したものと考えられる。
それは、四川産のカラトリカブトに近似しているからである。
<トリカブトの毒性>トリカブトの毒性は、薬用には減毒して使用されているが、誤って根を食べると中毒をおこすから注意しなければならない。
また、根部だけでなく、花にも毒成分がある。
長野県下など秋季の蜂蜜には、トリカブトの群落で採蜜したものがあり、それで中毒した例も再三報告されている。
中毒症状は呼吸中枢麻痺、心伝導障害、循環器系の麻痺や知覚及び運動神経の麻痺などである。
渡邉武博士「薬草百話」より
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